水の成る木

1月の暮れ、大粒の雪の降るなか、友人の果樹畑を訪れた。
前日から降り続いていた少し湿った雪が、脛の高さまで積もっていた。大粒の雪は木々にも張り付いて、枝をしならせていた。

2022年はゆっくり淡々と雪が降る年で、積雪量は綺麗に右肩上がりを続けた。冬の前半は例年よりも気温が低く適度に風があったため、枝に積もることは少なかったという。それでも軽く締まった雪は1月末の時点で腰ほどの高さまで積もっていた。

佐藤修平さんは、1996年生まれ。都内の大学に進学、卒業後、高祖父の代から続く岩井川果樹園を継ぐため2020年夏、湯沢市に戻る。1年目は仕事にも環境にも手応えを感じられず、葛藤が続いた。若い人間が就農することへの反対が耳に入って、無力感を感じることもあったという。その頃に比べれば今は幾分自分のペースを取り戻して、自分の仕事に対する視線も、地域の産業に対する視線も、少しずつ俯瞰的なものに変わってきた。祖父がずっと面倒を見てきたりんご、なしに続き、ももやぶどうにも挑戦を始めた。


畑には、樹齢50年を超える木々が暮らす。まだ2年目の彼には、木々の声をうまく聞くことも、それを活かすこともままならない。祖父や、地域の先輩の目を借り、手を借り、少しずつ手に感触を憶えてきた。
彼にとっての1年目、昨年の冬は、災害級のペースで降り積もる雪の中、なにも語りかけて来ない木々に向き合う手段を持っていなかった。枝を折られたり幹を折られたり、経験を積んだ農家までもが苦しんだ冬だった。しかし春を迎え再び動きだした枝々を見て、一人で闘っていたのではなかったのだと気がついたという。今はとにかく美味しい果実を実らせる、立派で元気な木を育てることに関心がある。
仕事に対する解像度が上がっていく中で、地域に対する視線も立体的に立ち上がってきた。
果樹に限らず、日本に兼業農家は多い。それぞれの働き方を否定したいわけでは無いけれど、手入れが必要な時期に周囲の畑に人の姿が見えなかったり、JAから”秋田のりんご”として全国に出荷されるりんごの品質が安定しなかったり、新参者だからこそ地域の産業に対して思うことがある。

どんな仕事にも共通することかもしれないけど、果樹園の1年の仕事は片付けのタイミング、要するに秋の収穫後から始まるという。今年の実の成り方、枝ぶり、変化を大きく捉えながら、来年の進路相談を続けていく。
冬の間も樹木の世話は続く。ふかふかの雪が積もった果樹園は、越冬する鼠に樹皮を囓られてしまったり、着雪で枝を折られてしまうリスクに常に晒されている。
平日は農業研修センターに通いながら、土日はひとりで仕事を続ける祖父を手伝っている。

季節に成るもの。気候の力を借りて、水分を蓄え、甘みを増す果実。
果物は加糖したジュースじゃないから、糖度だけが美味しさではない。遠くの産地から時間を掛けて来たものは、残念ながらベストコンディションを逃してしまうことが多い。

秋田に暮らしているのであればなおさら、農家さんはすごく身近な存在。大量に流通している商品じゃなくて、農家さんのこだわりのものを口にして欲しい。僕らからも声を掛けていくから、僕らにぜひ声を掛けて欲しい、と言っていた。

2021年の秋に収穫したりんごをいくつか持たせてくれた。
”いぼり”と呼ばれる、果実の表面の凹凸。つるの太さやお尻のかたち。美味しいりんごを見分ける方法は、調べれば有用な情報が出てくる。

堅実に、安くものを求めるスキルはとても大事。質の高いものを見極めて、気持ちよく対価を渡せる判断力もきっと、同じくらい大事。

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