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この冬は暖冬になると言われていたが、ここまで暖かい日が続くとは。
国内でも有数の豪雪地帯である秋田県南部でも、時たま雪は降るものの、シーズンを通しての積雪量は圧倒的に少ない。暖かい日も多く、雪は積もっては溶けてを繰り返している。
1月下旬ともなれば、雪が多い冬は屋根の雪下ろし作業が既に1,2回必要になるが、今年は一切不要な様子。
2024年1月25日 午前。前日から出ていた大雪警報にも関わらず、束の間の晴れ間が見えた。
昨晩降ったばかりの新雪が偏西風に吹かれて、ホワイトアウトを繰り返した。
午後、一度雪の溶けきった道路に再び雪が積り始めた。岩崎の集落内の道路には、避ける先のない雪が積み上がっている。
ヤマモ味噌醤油醸造元では、蔵元に併設されているrestaurant ASTRONOMICA®︎の料理の監修や、蔵付きの独自酵母である “Viamver®(ヴィアンヴァー)酵母”を使った食品でメニュー開発を行っている佐藤シェフが、スタッフの澤口さんと打ち合わせを行っていた。
佐藤シェフは、秋田県の沿岸南部、にかほ市の旧金浦町の出身。飲食店のプロデュース・マネジメント等に携わり、自分の店も経営してきた。
2017年、友人の紹介で岩崎地区・ヤマモ味噌醤油醸造元 七代目当主 高橋泰さんとの関係が始まり、2018年秋 湯沢市岩崎を中心に9日間に渡って開催されたイベント Fermentators Weekで提供されたフードの開発に携わった。2023年には自身の飲食店を閉じ、自身のケータリング事業と並行してヤマモでのレシピ開発、レストラン運営に携わる。
自身の事業を縮小してまで協働を深めた訳を聞けば、ここでしかできない経験がある、と答えてくれた。
伝統の蔵と、そこから発見されたViamver®酵母。
この特殊な酵母は、一般的に味噌・醤油の醸造を進める環境において塩分を必要とする性質(好塩性)と、無塩環境で活動できる性質併せ持ち、またアルコールを生成する能力、貝類に多く見られる旨味成分であるコハク酸を生成する能力などを持っていることから、2022年に特許を取得。
調味料の開発だけでなく、ワインの醸造などViamver®酵母の特性が活きる方法を探り、実験的な取り組みを続けている。
発酵とは元来、生では味が劣る食品や、長期保存の難しい食品に新たな価値を与える方法として進化を遂げた技術で、日本では縄文時代には既に魚醤を作っていたことが確認されている。
都市やリサーチセンターで発生する最新の先端の真逆に位置するのは、繰り返されてきた営みの中に埋もれかけた最深の先端なんだろうか。
佐藤シェフと打ち合わせに臨むのは澤口さん。現在は経理と、レストラン運営のマネジメント役を担っている。
Fermentators Weekへの運営スタッフとしての参加を契機に七代目当主との関係が深まり、秋田県内の大学から当初はインターンとしてカフェの立ち上げに携わった。岩手県沿岸部の出身。
ヤマモ味噌醤油醸造元という企業体は創業150年を超えるいわゆる伝統産業のひとつ。家業として代々継がれてきたもの。縁もゆかりも無いところから関わりを持ち、現在では7代目当主に事業のうちの実務的な役割の多くを任されている澤口さんは、血縁を持たない者でありながら現在の役割を任されている状態に、後ろめたさにも似た感情を抱くこともあったという。
その一方で、事業ひいては高橋家の歴史を自身の目で見ていく中で、血縁を持つ者だけでなく、外部から関わる人間が事業の中で役割を持ちそれぞれの力を発揮してきたからこそ、現在の事業の形があるのだと納得する機会も増えたという。
パンデミック以前から、発酵食品やそれを包括するカルチャーは、食文化に造形の深い方からの熱い視線を集めている。2024年以降特に増加が見込まれる、国外からの訪問客の期待にも応えられるよう、商品やレシピ開発のみならず、蔵を訪れる体験そのものを革新することに注力している。
また高橋家 本家の家屋をはじめとする岩崎集落内で眠っている建物や、そこに仕舞い込まれた歴史をプレゼンテーションできる状態に修繕するためにも、積極的な資本の獲得を行っていく。
佐藤シェフも澤口さんも、事業の中に居ながらそれぞれの軸を持ち、関わりを続ける。
それはまるで目まぐるしい発酵のように、環境の上にそれぞれの”味”を出しながら変化を続ける。
伝統産業と呼ばれる事業でさえも、存在する限りは変化を止めない。革新的な取り組みの裏には、数えきれない程のエラーの蓄積と、その中にほの暗く輝く原石に目を凝らす人々の視線が絶えない。
今しか無いこの”味”を、ぜひ楽しんでみてはいかがだろうか。