#商い
岩崎の川向う、車で10分ほどのところに位置する増田町。内蔵(うちぐら)のある町並みで知られるこの地域は、古くから商人の町として賑わった。岩崎と同様、皆瀬川と成瀬川の豊かな水源を持ち、酒蔵や味噌蔵も多く存在していた。
メインの大通りを少し川の方に進んだところにあるのは、山田豆腐店。店主の雄二(ゆうじ)さんは、真っ赤なほっぺがチャーミングで、近所でも人気者のおじいちゃん。
山田豆腐店さんで作っているのは 木綿豆腐に揚げ豆腐 寄せ豆腐、それに近所の人が使う豆乳。国産の原料に、創業の頃から変わらない作り方で、大豆の香りとトロトロな喉越しが美味しい。
昔はこのあたりだけでも3,4件のお豆腐屋さんがあったんだけど、今こうして営業しているのは山田さんのところだけ。
豆腐の仕込みでもたくさん必要になるのが、お水。お酒やお味噌を仕込む蔵と同じように、井戸水を使って豆腐を作っている。
地下の水脈ってのは生き物みたいなもので、山田豆腐店さんのすぐ近くにかつてあった味噌蔵さんやお隣さんの土地に湧いていた井戸水は 今では使えなくなってしまったらしい。一度長期に渡って使わなくなってしまうと、水の通り道を次第に礫(れき)が埋めてしまうようだ。
衛生検査の費用は掛かるけど、枯れない限りはずっと使えて、なにより通年で水温が一定だから お豆腐を作るのに重宝するんだって。
お昼前の時間帯、お父さんにお話を聞かせていただく間にも、お客さんがちらほら訪れる。増田の蔵を見に来た遠方のお客さんから、歩いて来れる範囲のご近所さんまで。
ちなみに近所の常連さんは、まだ暗いうちに買いに来るらしい。それに合わせてお父さんは、毎日2時半頃起きて、4時頃までに一周目の作業を終える。
和食を食べるおうちだったら 豆腐ってほとんど毎日食べるもの。それに秋田の県南部だとたまり汁といって、たっぷりのたまり醤油にふわふわの寄せ豆腐を浮かせた、人が集まる席でよく振る舞われる料理がある。これが、とろとろふわっと、なんとも美味しい。関西のあっさり出汁のお吸い物の兄弟みたいな感じだろうか。
近辺でお祭りがあるときはぜひ注意して、お振る舞いのたまり汁を探してみて。